
サマリー
本レポートでは、介護施設への入所時に家族による身元保証が困難な要介護高齢者の人数を、全国および都道府県別に推計しました。
身元保証サービスを提供する事業者や、自治体・介護関連団体が、地域ごとの潜在的な支援ニーズを把握する際の参考資料としてご活用いただけます。
対象:介護認定を受け、施設入所を必要とする高齢者
課題:家族・親族による身元保証が困難なケース推計
結果:全国で約52.1万人に上る可能性
公表:2026年6月28日(※2024年までの最新公表統計を基にした2026年時点での独自推計)
本レポートの引用・転載について
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引用例:
一般社団法人あんしんの輪『施設入所時に、家族に代わり外部の身元保証サービスを必要とする要介護高齢者数の推計』[2026年6月推計](https://www.ansinnowa.net/research/nursing-home-guarantor-research/)
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はじめに:推計の背景と対象者の定義
超高齢社会と単身世帯の増加が加速する日本において、介護施設や高齢者住宅への入所時に求められる「身元保証人(連帯保証人・身元引受人等)」の確保が、極めて深刻な社会課題となっています。
本調査において推計する「家族による身元保証が困難な要介護高齢者数」とは、単に一人暮らしであるという人口データ上の数値に留まりません。
これは、「実際に介護が必要となり介護施設等に入所する際、頼れる身内や家族がいないために、外部の身元保証会社や支援団体・企業等に身元保証人を依頼せざるを得ない可能性が高い人たち」を指しています。
これまで、マクロな人口動態としての「身寄りのない高齢者数」に関する調査は存在していました。
しかし、実際に介護が必要になり、施設入所という具体的な人生の転機において、「外部の企業・団体へ身元保証を依頼しなければ、住まいや介護サービスを確保できない」という具体的な壁に直面する潜在的な高齢者規模を、都道府県や都市圏レベルで具体的に可視化したデータは存在していませんでした。
そこで一般社団法人あんしんの輪では、高齢者の生活支援や身元保証に関する専門的な知見に基づき、公的機関および民間シンクタンクの最新統計を掛け合わせ、施設入所時に身元保証の課題を抱える高齢者数の推計を行いました。
本推計における対象者の定義
本レポートでは、以下の3つの条件をすべて満たす層を『家族による身元保証が困難な要介護高齢者』と定義し、その潜在数を算出しています。
- 条件1:身寄りのない高齢者
子や配偶者など、三親等以内の頼れる親族が存在しない65歳以上の高齢者。 - 条件2:要介護・要支援認定者
介護保険制度において認定を受けており、実際に施設入所や介護サービスの対象となり得る状態にある者。 - 条件3:施設側の受け入れ要件による障壁
施設側が入所要件として身元保証人を必須としているため、親族がいないことが直接的な入所困難(ハードル)に繋がるケース。
つまり、「介護保険の要介護(要支援)認定を受けており、介護施設等への入所を希望するものの、家族や親族から身元保証人・身元引受人となってもらえる見込みが低い高齢者」を算出しています。
これらの人々は、施設入所の際に外部の身元保証サービスや支援団体に依頼せざるを得ない可能性が高いと考えられます。
推計の算定基準と一次情報ソース
客観的な推計を行うため、本調査の算出ロジックは以下の公的・学術的な統計データに基づいています。推計結果の検証可能性を担保するため、全国推計および都道府県別の按分計算に使用したすべてのデータソースを明示します。
- 全国の身寄りなし高齢者数(ベース数値:286万人)
出典:株式会社日本総合研究所『増加する「身寄り」のない高齢者-頼れる親族がいない高齢者に関する試算』(2024年4月) - 施設側が身元保証人を必須とする割合(障壁数値:92.4%)
出典:総務省行政評価局『高齢者の身元保証に関する調査』(2022年3月) - 全国および都道府県別の要介護・要支援認定者数・第1号被保険者数
出典:厚生労働省『令和5年度 介護保険事業状況報告(年報)』(2024年8月) ※e-Stat公表データ(表番号02T、04-1-1T)より各都道府県の数値を抽出して使用。 - 都道府県別の65歳以上単独世帯数(地域別按分に使用)
出典:総務省統計局『令和2年国勢調査 人口等基本集計』(2021年11月) ※e-Stat公表データ(表番号12-1)より抽出し、日本総研の推計ベース数値を各都道府県に割り振るための分布係数として活用。
謝辞
本推計レポートは、株式会社日本総合研究所様が実施・公開された「増加する『身寄り』のない高齢者」に関する緻密な試算データを基礎として成り立っています。日本におけるマクロな社会課題を先駆けて可視化された同研究所の多大なる貢献に対し、この場を借りて深く敬意と感謝を申し上げます。あわせて、本推計に不可欠な有益な公的統計データを継続的に整備・公開されている各省庁関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
【全国推計】52万人超が施設入居時の保証要件に直面
前章の定義および公的・学術データに基づき推計を行った結果、全国において施設入居時に身元保証人が確保できず、実務的な受け入れ拒否や遅延の壁に直面する可能性が高い「家族による身元保証が困難な要介護高齢者」の潜在数は、全国で推計520,600人に上ることが明らかになりました。
全国の潜在的な身元保証困難高齢者数: 520,600人
この「約52万人」という規模は、鳥取県の総人口(約53万人)にほぼ匹敵する人数です。単なる「身寄りのない高齢者」の数ではなく、「すでに要介護状態にありながら、身元保証人がいないという契約上の理由だけで、速やかな施設入所や適切なサービス享受が阻害される危機にある実数」を示しており、極めて深刻な社会課題であると言えます。
【都市圏別】大都市圏に集中する身元保証の空白リスク
施設入居時の身元保証ハードルは、日本全国一律に発生しているわけではありません。地域別のデータを広域的な移動を伴う「主要都市圏」ごとに集計・可視化した結果、都市部へのリスク集中という実態が浮き彫りになりました。
以下のバブルチャートは、各都市圏における「家族による身元保証が困難な要介護高齢者数」の絶対数を円の大きさで示しています。


特に顕著なのは、東京圏(1都3県)と大阪圏(近畿4府県)への集中です。
東京圏で「147,800人」、大阪圏で「100,180人」となっており、全国推計(約52万人)の半数近く(約47.6%)が、この2大都市圏のみで発生している計算になります。
高度経済成長期に地方から都市部へ流入した世代が高齢化を迎え、核家族化や単身化が最も進行している大都市圏において、親族のサポートネットワーク(身元保証機能)が急速に失われていることがデータから読み取れます。
【主要都市圏別の要保証困難高齢者数】
| 圏域 | 構成 | 要保証困難高齢者数 |
| 東京圏 | 東京・神奈川・埼玉・千葉 | 147,800人 |
| 大阪圏 | 大阪・兵庫・京都・和歌山 | 100,180人 |
| 愛知圏 | 愛知・岐阜・三重・静岡 | 47,423人 |
| 福岡圏 | 福岡・佐賀・長崎・大分 | 36,629人 |
| 北海道圏 | 北海道 | 30,282人 |
| 宮城圏 | 宮城・岩手・山形・福島 | 22,099人 |
※各圏域の数値は、対象府県の合算値です。
※高齢者の広域的な移動・経済圏を考慮したグルーピングを行っています。
【都道府県別】絶対数と高齢者人口比から見る地域課題
【47都道府県別:家族による身元保証が困難な要介護高齢者数】
| 都道府県 | 推計対象者数(絶対数) |
| 北海道 | 30,282人 |
| 青森県 | 5,184人 |
| 岩手県 | 4,874人 |
| 宮城県 | 7,432人 |
| 秋田県 | 4,455人 |
| 山形県 | 3,042人 |
| 福島県 | 6,751人 |
| 茨城県 | 8,157人 |
| 栃木県 | 5,589人 |
| 群馬県 | 6,723人 |
| 埼玉県 | 23,208人 |
| 千葉県 | 21,516人 |
| 東京都 | 67,437人 |
| 神奈川県 | 35,639人 |
| 新潟県 | 7,404人 |
| 富山県 | 3,636人 |
| 石川県 | 3,780人 |
| 福井県 | 2,230人 |
| 山梨県 | 2,747人 |
| 長野県 | 6,610人 |
| 岐阜県 | 6,044人 |
| 静岡県 | 11,404人 |
| 愛知県 | 23,193人 |
| 三重県 | 6,782人 |
| 滋賀県 | 3,930人 |
| 京都府 | 14,109人 |
| 大阪府 | 53,808人 |
| 兵庫県 | 26,622人 |
| 奈良県 | 5,632人 |
| 和歌山県 | 5,640人 |
| 鳥取県 | 2,112人 |
| 島根県 | 2,920人 |
| 岡山県 | 7,988人 |
| 広島県 | 12,402人 |
| 山口県 | 7,192人 |
| 徳島県 | 3,376人 |
| 香川県 | 4,249人 |
| 愛媛県 | 7,525人 |
| 高知県 | 4,312人 |
| 福岡県 | 22,103人 |
| 佐賀県 | 2,650人 |
| 長崎県 | 6,669人 |
| 熊本県 | 7,180人 |
| 大分県 | 5,208人 |
| 宮崎県 | 4,573人 |
| 鹿児島県 | 9,063人 |
| 沖縄県 | 4,912人 |
※本表は総務省「国勢調査」および厚生労働省「介護保険事業状況報告」の公表数値を基に、各都道府県の単独世帯比率と認定率の実態を反映して独自に按分推計したものです。都道府県別推計値の積み上げ合計と全国直接計算値には、按分に基づく軽微な統計的誤差が含まれます。
下記のランキングは、身元保証の確保が困難な要介護高齢者の絶対数が多い上位10都道府県を示したものです。施設入所の供給と需要のバランスが最も逼迫しやすい「ボリュームの大きいエリア」の分布をご確認ください。

考察と今後の展望:単身高齢化社会における身元保証問題の構造的課題
本推計から明らかになった「全国で52万人超」という規模は、もはや個人の困窮や親族間の私的な問題に留まらず、日本の社会保障制度および居住・医療契約システムの基盤を揺るがす構造的な課題であることを示しています。
家族の変容と単身世帯の急増というマクロな人口動態に対し、実務社会(病院や介護施設)が依然として「親族による身元保証」を前提とした契約慣行を維持していることから、この大規模な「実務的空白地帯」が生じていると考えられます。
① 家族機能の縮小と実務的要件の乖離
生活困窮や社会的孤立を背景とした「身寄りのない高齢者」の増加は、従来の共同体や家族が担ってきたセーフティネットの機能喪失を意味します。 特に、本推計においてリスクが集中している大都市圏では、近隣共同体による互助(インフォーマルな支援)を期待することが難しく、要介護状態の発生と同時に契約上の障壁が顕在化しやすい環境にあります。
施設側が未収金リスクや緊急時の意思決定、遺留品処理の担保として身元保証人を求める経済的・実務的合理性がある一方で、頼れる親族を持たない対象者にとっては、これが適切な医療・介護サービスへのアクセスを阻害する「制度的障壁」として機能してしまっているのが現状です。
② 既存の公的セーフティネットとの補完関係
この課題に対し、既存の「成年後見制度」や行政による「日常生活自立支援事業」が一定の役割を担っていますが、実務上はいくつかのギャップが存在します。
成年後見人は財産管理や身上保護(法的な手続きの代理)を本務とするため、原則として施設入居時の「連帯保証人(債務保証)」や、医療行為における「同意権」を一身専属的な権利として代替することはできません。 したがって、公的な後見制度が利用されているケースであっても、現場の入居要件を充足できずに実務が停滞する事例が散見され、既存制度だけではカバーしきれない空白を埋める「補完的な仕組み」が求められています。
③ 包括的な社会システムの構築に向けて
今後、多死社会のピークを迎える日本において、適切な医療や住まいの確保を個人の家族保有状況に依存し続けることは持続可能ではありません。 この課題を解決するためには、以下のような多角的なアプローチによる包括的な社会システムの構築が急務と考えられます。
- 行政による居住・入院支援の要件緩和とセーフティネットの拡充
- 成年後見制度の柔軟な運用と、実務的権限に関する法的な整理
- 高い公益性と専門性を担保されたサードセクター(非営利組織・民間機関等)による身元引受機能の標準化
本推計データは、これまで可視化されにくかった「要介護状態にある身元保証困難高齢者」の規模を地域別に具体化したものであり、今後の地域包括ケアシステムの設計や、持続可能な福祉政策を検討する上での一助となることを目的としています。
本推計における前提条件と統計上の限界
本調査による推計結果を解釈、あるいは引用・議論するにあたり、以下の前提条件および統計上の限界に留意されたい。
- 潜在的リスク層としての対象定義
本推計で算出した「要保証困難高齢者数」は、現時点で直ちに介護施設への入所を希望・予定している層のみに限定されない。実際には在宅介護サービスを利用しつつ自宅で生活している高齢者も多く含まれる。しかし、加齢や健康状態の悪化に伴って将来的に施設入所(または緊急入院)を余儀なくされる局面や、民間賃貸住宅の住み替え・契約更新を行う局面において、最終的に外部の身元保証支援を必要とする「潜在的リスク層」の全体像として解釈するのが妥当である。 - 使用データの年次ズレによる影響
本調査で用いたデータソース(令和2年国勢調査、令和4年総務省調査、令和5年度厚労省報告、2024年日本総研推計)には数年の年次ギャップが存在する。ただし、高齢化の進行や単独世帯の増加といったマクロな人口動態および社会構造のトレンドは数年単位で劇的に変化するものではないため、現時点における大局的な地域別構造を把握するための「概算値」としての信頼性は十分に担保されているとみなしている。 - 都道府県別按分における地域差の仮定
全国の身寄りなし高齢者数を各都道府県に按分するにあたり、各自治体の「65歳以上単独世帯数(一人暮らし)」の比率を一律に適用している。しかし実際には、大都市圏と地方部において「一人暮らし高齢者における親族との近接度(近隣に親族が住んでいる割合)」や「未婚率・地域コミュニティの結びつきの強さ」には質的な地域差がある可能性があり、按分計算における一律の仮定は統計上の限界を含んでいる。 - 代替保証手段の存在による影響
身寄りが全くいない高齢者であっても、友人・知人、過去の雇用主、あるいは信頼関係のある近隣住民などが善意で身元保証人を引き受けているケースが一定数存在する。そのため、実務上で外部機関への依頼が「100%不可避」な人数の実数は、本推計値よりわずかに下回る可能性がある。 - 施設種別および自治体の制度的対応による差異
施設側が身元保証人を必要とする割合(92.4%)は全国一律の平均値として計算に用いているが、実際には特別養護老人ホームなどの公的施設と民間の有料老人ホームでは受け入れ基準が異なる。また、各自治体が実施している成年後見制度の利用支援や独自の保証代替措置の有無によって、実務上の必要性には地域ごとにグラデーションが存在する。 - 推計の保守性
本推計の基礎とした「単独世帯数」は2020年の国勢調査時点のものである。国勢調査以降も単身高齢世帯数は年々右肩上がりに増加し続けているため、現在のリアルタイムな要保証困難高齢者数の実数は、本推計値(全国約52万人)よりもさらに拡大している可能性が高い。
